2011年11月15日

やけど防止スリーブ

 脳に視床といわれる部位があります。間脳といわれるところにあり、知覚を大脳皮質(感覚野)に伝える入力システムの大事な中継核です。この視床も脳卒中の後発部位の一つで、この部位の後遺症は運動麻痺ではなく感覚障害が起こります。有名なものに「視床痛」というのがあります。「何かが肩や腕にへばりついてビリビリと電気を流しているような」「ジリジリと焼けつくような不快な」感覚と表現されますが、イメージできますか?通常の鎮痛剤ではコントロールできません。てんかん治療薬や安定剤や抗うつ剤を使うこともありますが、期待したほどの効果はなく、副作用で中断することも少なくありません。最近出たプレガバリン(Pregabalin)という内服薬が有効です。

 今回お話しするのは、視床痛ではありません。
 視床の障害で起こる後遺症にはもっと高度な感覚障害、つまり知覚脱失(完全な感覚麻痺)もあるわけです。
 いつも外来では、今述べた頑固な視床痛をどうしようかと悩むことが多かったのですが、この知覚脱失も意外とたちが悪いもので、日常注意が必要なのは「やけど」です。特に主婦の場合は台所に立って火や熱を扱う機会が多いのでやけどの危険度が高くなります。
 視床の障害だけですと、運動麻痺を伴わないで、この視床の感覚障害だけ後遺症として残るのですが、感覚障害というのは見た目にはわからない後遺症ですから、周りに理解してもらえない精神的苦痛も伴うようです。視床痛の治療に抗うつ剤を使う理由の一つです。先ほど紹介したプレガバリン(Pregabalin)もさすがにこの知覚の完全脱失には効果はありません。
 
 当院にもこの完全知覚脱失の後遺症を持った主婦の方がいらっしゃいます。よくやけどをします。たぶんガスコンロにかけたお鍋の上に手をかざしてその向こうにあるものを取ろうとして熱くなったお鍋に腕を付けてしまうのでしょう。前腕の内側に何本もの線状のやけどの痕が残っています。
 先日外来を受診した際に、「スポーツに使うリストバンドとかサポーターを(やけど防止に)するのはどうでしょうか?」と相談を受けました。やけどの痕が、一見すると、リストカットの痕のように見えてしまい、友人から不審な目で、「その傷どうしたの?」と聞かれて、そのたびにその場の空気が重くなるというのです。
 「リストバンドはアイデアとしては悪くないですが、燃えたり溶けたりしたら余計危険ですから、やめてください。ネットで調べてみます。防刃スリーブというものがセキュリティーグッズであるのでやけど防止のものも探せばあると思うので。」(僕がアーチェリーを始めたころ、フォームがまだ完成していないうちから矢を放っていたので、よく弦で自分の腕を傷めていました。青あざになるだけならまだ良いほうでそれこそやけどの痕のように線状の痕が残ります。このときに「防刃スリーブ」なるものを見つけて使っていたのです。アーチェリーにはちゃんと「アームガード」というアクセサリーツールがあるので本来ならそれを購入すればよいのですが)

 見つけました。商品名「ホットスリーブ」なる、やけど防止スリーブを。商品名を出すのはどうかと思いましたが、ほかに同種の商品は見当たりませんでした。やけど防止なのに、「ホット」なスリーブとはおかしな名前ですが、間違いありません、やけど防止用です。商品の挿絵には、車のエンジンルームを開けて作業している絵が載っていましたから、そういう作業で使われるものなんですね。
これを少し加工すれば使えるんじゃないでしょうか?
 さっそく連絡しました、あの方に。

 お役に立つといいのですが・・・。
posted by 極楽とんぼ at 18:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 医学・健康

2011年10月14日

片頭痛による脳梗塞 実際にあった一例

「前兆を伴う片頭痛は、脳梗塞を発症するリスクが2倍になる」という報告があります。

「頭痛の各論1」でも、「前兆が起こっている間は局所的に脳の血流低下が起こって」いると説明しました。この血流低下を頻回に繰り返すとのちのち脳の萎縮や無症候性の脳梗塞が見つかるようになるというお話です。
しかし、一般的に片頭痛の患者さんの好発年齢は若く、高齢になるにつれて頭痛の発作も少なくなります。動脈硬化が加わってくる高齢者と違い、仮に短時間の脳血流低下があっても急性発症の脳梗塞にいたる心配は要らないと思われがちです。
ところが、「前兆を伴う片頭痛は、脳梗塞を発症するリスクが2倍になる」というのです。

ここに、36歳で脳梗塞になった女性を1例御紹介したいと思います。(ご本人の承諾をいただいて掲載いたします。)
尚これは、学会向けの症例報告ではありません。そのため、個人情報にあまり立ち入らないよう配慮しましたので、不備な点や実際とは異なる点が多数見つかるかもしれません。

 彼女はごく普通の36歳の会社員です。2008年6月30日の朝、左片麻痺で救急搬送されました。前日の夜から明け方まで友人と飲酒し、自宅で眠った後強い頭痛で目が覚めました。吐き気がしてトイレに行って、嘔吐した直後に脱力発作が出現しました。
救急搬送されたときの症状は意識はやや混濁していましたが、まもなく回復しました。右の前頭部痛と左上下肢は完全〜強い運動麻痺を認めました。入院時にすぐにCTAという脳血管造影検査を行いましたが、閉塞動脈も狭窄血管も認めませんでした。脳塞栓症と診断して治療を開始しましたが、翌日のMRIには右の基底核にラクナ梗塞が出現していました。
 こういう若い年齢で発症する脳梗塞は脳動脈硬化以外の原因を念頭に入れておかなければなりませんが、その後の検査でも、脳塞栓を起こすような心臓の異常もなく、血液検査上も異常は見つからず、DSAという脳動脈造影検査にも異常は見つかりませんでした。
結局、脳梗塞発症の原因は脱水症、その誘引となったのは前日から明け方まで深酒をしていた事と、数日間真夏日が続いていた事だろうとご家族にも転院先のリハビリ病院にも説明したのですが、なんとも納得のいかないもやもやした気持ちでした。(なぜなら、脱水で脳梗塞を起こすには、基盤に動脈硬化があるから、というのが僕の持論でしたので。)
 当院で急性期リハビリを行った後、彼女は回復期リハビリのため転院しました。そして翌2009年1月に退院した報告と「頭痛」のために受診します。リハビリのおかげで、杖を使って歩けるようになっています。右の上肢は・・・残念ながら完全麻痺のままでした。そのときは元気な笑顔で診察室に入ってきた彼女にただただ懐かしく、「脳梗塞の痕は小さくなっているし、ほかに異常はないよ」といって帰しました。
 その年の4月、今度は、「右眼がぼやける、頭痛がある、倒れる前にあった症状に似ている」といって受診しました。検査には異常はありません。頭痛はひどくないのか、「検査の結果は異常なし」と伝えると安心してそれ以上質問もなく帰っていかれました。
 今年の6月、めまいがすると言って受診されましたが、このときの検査の結果も異常なく、耳鼻科に行くといって帰宅、今回10月に、「3日前からもやもやしていた、今朝頭痛あり2回嘔吐した、また前のようになるんじゃないかと心配だったので来ました」といって受診したときに、「もしや、この人は片頭痛では」と始めて疑いの眼を持ったのです。

 片頭痛を疑って始めて詳細な問診を行う・・・なんとも藪な医者です。
「もしかすると、あなたは片頭痛かもしれません、片頭痛のせいで脳梗塞になったのではないかと思うのでいろいろお聞きしたいのですが・・・・頭痛の前に何か光るものが見えたりしませんか?」
 彼女は、頭痛に対して慣れっこになっているようでした。「う〜ん、そうかもしれません、ああ、そうですね、光るものといえばあれが光るものかもしれませんね」と思い浮かべるように答えました。「光というよりぎざぎざのものでしたよ」「それはだんだん大きくなりますか、大きくなってものが見えなくなる?」「いいえ、変わりませんでした」(そう答えましたが、実際には頭痛の前には物がぼやけて見えづらくなっています)「そのぎざぎざが見えるもっと前に、今回のように頭がもやもやしたりしたことはよくありますか?」「はい、ありました」「やっぱり片頭痛のようですが、こういう頭痛はいくつくらいからありましたか?」「二十歳前くらいからですね、会社に勤めて仕事をするようになってから」「普通の頭痛薬では止まらなかったでしょう?」「そうですね、それでも薬を飲んでないと痛くなるので結構飲んでました、病院に行っても異常はないって言われるだけでしたし」「ほかに頭痛の前にあった症状は?」「生あくびが出ました」「この脳梗塞になる前のことを少し聞きたいのですが、やっぱり頭のもやもやが続いてましたか?」「もやもやというより会社を休むほどの頭痛が1週間くらいずっと続いていました、とにかく動きたくないという感じ・・・」「ずっと頭痛が続いていたのでよく薬を飲んでいました、でも効かなかった・・・」「それから、目が震えてました・・・物がちゃんと見えないんです、震えて・・・」
 彼女は、予兆も前兆もしっかりある、片頭痛の患者さんでした。そして、
 脳梗塞になる前、彼女は前兆のある頭痛を頻繁に繰り返していたのだとわかりました。

 でも、脳梗塞が発症する前に、彼女は頭痛で目覚めています。片頭痛の頭痛は血管が拡張して血流が急に増えるからと説明されています。それなら脳梗塞になどなるはずがありません。いろいろ考えた結果次のような説明が浮かびました。
 彼女は1週間もの間前兆のある頭痛発作を頻繁に繰り返していたので脳血流の低下の状態が続いていました。原因は薬物乱用頭痛と思われます。
 この片頭痛の最中に彼女はアルコールを摂取し、強度の頭痛で目覚めました。脳血流低下が続いていた中でのアルコール摂取による急激な血管拡張、この時点でおそらく脱水状態があったと思われます。トイレで嘔吐したときに、脳圧が急激に上がったはずです。このときに脳血流の低下を起こし、脱水と脳圧亢進で脳梗塞が発症した、という仮説です。
 
 前兆を伴う片頭痛は脳梗塞のリスクが2倍、これは、いろいろな要因のひとつに過ぎないのだと思います。前兆を伴うから脳梗塞になりやすいのではなく、彼女の場合は脱水であったように、ほかに脳梗塞になりやすいリスクファクターが重なったときは要注意ということではないでしょうか?
 前兆だけで脳梗塞になるとは・・・やはり思えません。

 彼女の今、ですか?
 相変わらず片頭痛がありますが、月に2回程度(減ったということのようです)ということです。片頭痛の治療薬を処方しました。
posted by 極楽とんぼ at 18:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 医学・健康

2011年10月10日

わかりやすい頭痛の話 各論3 群発頭痛

今回は、一次性頭痛(良性)の代表的な頭痛、その中の群発頭痛についてです。
頭痛は全体的にみても女性に多いということになっていますが、中でも女性に多いのは片頭痛です。
これからお話しする群発頭痛は、めずらしく男性に圧倒的に多い頭痛です。圧倒的に多いと言っても、そもそも群発頭痛自体が頭痛全体の中で占める割合は極めて低いので、「頭痛は女性に多い」という位置づけは変わりません。

群発頭痛は、20〜40歳の男性に多くみられる頭痛発作です。
発作ですから、突然に起こる・何度も繰り返す・持続時間は短い、頭痛ですが、この頭痛発作の繰り返しがいつまでも続くところが片頭痛と大きく違うところです。
激痛です。(ウソではありません。鉄工所の社長が泣いて来ました。)
いったいどのくらい続くのかというと、数ヶ月単位です。ワンシーズンという方もおられます。
しかも、ある日突然頭痛はしなくなったかと思うと、それが1,2年(もっと長い人もいます)、何の音沙汰もなく過ぎるのです。
この繰り返しです。
老人にはあまり見かけない頭痛です。
ほかに、
睡眠中に起こりやすい、
明け方の痛みで目をさますことが多い、
発作中、頭痛の側の眼が充血したり、涙が出たり、鼻が詰まったり、鼻汁が出たり、顔に汗をかいたり、まぶたがさがったり、脹れたりする、
片頭痛と違って吐き気や嘔吐はあまりない、
などの特徴があります。

鉄工所の社長が泣いて来たっていわれても、イメージがわかないって? そうですよね。
じゃあ、あなたに少しリラックスしていただくために、ここで一息入れて、鉄工所の社長のお話をしましょうか?

 Aさんは、50代の非常にエネルギッシュな男性です。大きな鉄工所の社長で、商工会議所の重鎮でもあります。自分の工場を拡大し、海外出張だ、さらにはお付き合いのゴルフだ、と多忙を極めておりましたが、ある日、「市販のどんな薬を飲んでも頭痛が止まらない」といって飛び込んできました。
彼の頭痛は朝から始まります。明け方頭をかきむしるような頭痛で目が覚めて、頭痛薬を飲んでも大して痛みは軽くなりません。あまりの突然の痛みに「頭の中に何か起こったのでは」と心配になり救急病院に行って薬をもらい、しばらく続けましたがそれも効果がありません。数時間で頭痛は止まりますが、薬が効いたという感じではなく、そのあとも風邪をひいたようなどんよりした感じが続き、また頭痛が始まります。
何日もこんな頭痛が続いては仕事にならないと脳外科を受診し、「群発頭痛」と診断されました。最初のころはエルゴタミンを服用しておりましたが、大した効果はありませんでした。コントロールが困難な片頭痛や群発頭痛の治療で気をつけなければならないのは、ソセゴン依存症にしないことです。夜間の救急診療などではどうしても安易な手段を選びがちになりますが、頭痛発作は繰り返すといっても一度は止まるのですから。あるときAさんは、「酸素を吸うと楽になりますよ」と言われ、処置室で酸素を吸わされて帰宅しました。これは神の恵みでした。なぜなら、Aさんは鉄工所の社長、酸素なら作業所にたくさんあります。それ以来、工場の酸素は群発頭痛の改善用に供せられたのです。
 Aさんは幸運といえば幸運だったかもしれません。作業に使う酸素は純酸素です、市販の携帯用の酸素ごときでは頭痛は緩和しなかったでしょうから。でも、酸素で群発頭痛が遠のくわけではありません。「こんなに頻繁に純酸素を吸っていても体に害はないのか」と心配になりました。酸素を吸っていれば頭痛が襲ってこないと勘違いしていたようです。
 幸い彼もイミグランという薬に出会います。イミグランは群発頭痛の特効薬のように言われていますが、患者さんにとってはそうでもないようです。でも、ないよりはずっと良いというところでしょうか。副作用もありますし。
 彼の場合、2001年、2003年、2005年、2006年、2009年と頭痛発作で悩まされたようですが、それから(?)は音沙汰がありません・・・。
最後の頭痛からまだ2年しか経ってないって?
でも、彼ももう65歳を過ぎましたから、群発頭痛は少なくなるんじゃないでしょうか・・・。
 あ、そうそう、一つだけもしかしてと思ったことがあるのでお伝えしておきますね。2001年に初めて彼を診察したのですが、そのとき、「睡眠時無呼吸といわれて手術を受けたが効果はなかった」と言ってましたが、もしかしたら、頭痛発作の時に鼻が詰まるので、耳鼻科的な問題で頭痛が起こるのではないかと思った(思われた?)のでしょうね。無駄な手術だったかもしれません。

麻酔薬(ソセゴンもその一つです)のことを調べていたら、面白い記事を見つけました。群発頭痛の方には耳寄りなお話です。

『リドカインという局所麻酔薬を点鼻すると群発頭痛が楽になります。
薬局で買える鼻炎用の点鼻薬に、なんとこのリドカインが含まれているものがあります。
たとえば「ベンザALスプレー」・・・
リドカインは、鼻炎症状に伴う鼻の不快感を鎮めるため配合されています。・・・
リドカインの効果は群発頭痛信号を伝える鼻の奥の神経節を麻酔することによりあらわれます。
全例に有効というわけではありません。
効く場合は数分で効果があらわれます。
あお向け、頭を過伸展、頭を頭痛側に回転してスプレーします。
医家では2〜4%の濃度のものを使います。市販薬のは薄いので安全性は高いと思われます。
本製品は季節商品のため、秋口には置いてない店が多いです。
●「ベンザALスプレー」は製造中止だそうです。
「ベンザALスプレー」を改良した『ベンザ鼻炎薬α(アルファ)スプレータイプ』は
リドカイン含有量5mg/1mL(0.5%)で「ベンザALスプレー」と同等です。・・・
チミコデ鼻炎スプレー(三菱ウェルファーマ)というのもあります。』



次は・・・片頭痛で脳梗塞になった症例をご紹介しましょう。
片頭痛は良性頭痛といわれるのに? ・・・ はい、「頭痛、侮るなかれ」です。続きを読む
posted by 極楽とんぼ at 22:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 医学・健康