2015年11月24日

認知症高齢者の運転について

いつも気を付けて診療していたつもりでした・・・
初診や通院中の人やご家族に声をかけて、自動車の運転をしていないか確認してくれるよう、スタッフにも注意していました・・・

それでも、見落としました!

まさか、ご本人が運転して受診していたとは思いもよりませんでした。
奥様がいつもそばについて仲睦まじく診察室に入ってこられていたから、です。
そもそもこの方が認知症外来に来られたきっかけは短期記憶障害です。
何度も何度も同じことを聞くというものです。実行機能障害などはありませんでした。
MMSE(ミニメンタルステート検査、長谷川式テストのようなもの)は21点で、軽症の認知症に入りました。
この検査だけで治療を決めたわけではありませんが、この時からアリセプトの服用が開始となりました。
 それから約半年が経過して奥様から「最近物忘れがひどくなった」と報告がありました。事情を聞いたら、奥様が用事を済ませている間にすぐそばの薬局で薬を作ってもらえば済むものを、わざわざ車で家の近くの薬局まで出かけて戻ってきた、というのです。いつもしていることができなくなった、理解と判断力が低下してきた、ということですが、「わざわざ車で」というのが引っ掛かります。
 「もしかしてご主人は車を運転しているのですか?」と質問したところ、質問の意図が分からないというように奥様は「はい」と答えます。「え、ご主人は認知症の治療中ですよ」、「はい、でも、まだそんなに悪くはなっていないと思ってましたから」、「最近の事故のニュースでも、いろいろ取り上げられてますよね」、「はい、でも、そばで指示してあげたら問題なくできるので」、「でも、認知症のご主人が仮に事故を起こしてもご本人には責任はないですが、奥様と僕は責任を問われるかもしれませんよ、僕から直接ご主人にお話ししましょうか?」、「そうですか、少し時間を下さい、話し合ってみますので」、そう言って帰って行かれました。

 この方を通して、早急に考えなくてはならないいろいろなことが見えてきました。

1.認知症高齢者の運転は、禁止すべきか?
2.誰が「禁止」と伝えるのか?
3.認知症なら全員「運転禁止」なのか、どこで線引きすればよいのか?
4.社会啓蒙はどの部署が行うのか、警察関係か、自治体関係か、医師会関係か、・・・?

1.の質問を投げかけると、誰もが、「そりゃあ、禁止すべきでしょう」というでしょう、特に昨今のニュースを観ている人なら。でも、そんなに簡単ではないのです。現代は車社会です。一家に一台の時代ではなくなっているくらい、車が普及しています。歩いて5分のところでさえ車で行っちゃいます、帰りは買った物で手が塞がるから。買い物はしなくても、運転手の役目で重宝がられている夫もいます。こんなに便利な車と運転手が突然いなくなったらどうしますか?
スーパーで買った物を後で届けてもらうサービス、高齢者向けの無料パスや、タクシーの無料回数券、介護保険による通院サポート、など社会資源の活用が必要です。全国的に網羅できますか?大きな顔するな、なんて気持ちではサービスとは言えないんですよ。
2.はどうでしょうか?「認知症の診断」をした医師が診断書を発行するよう義務付けすればいいんじゃない?「車の運転は禁止する」と上から目線では言いにくいでしょうから、「認知症」と診断書に書かれたら運転は禁止される法規を作ればいい・・・。怖いですね。あそこに行ったら免許証を取り上げられるぞ、みたいな。診断だけならいつものこと、それは報告義務があるのでしょうか?どこに報告したらいいのでしょう?
自己申告? それで、昨今の大事故は未然に防ぐことができたでしょうか?
3.「認知症高齢者の運転事故防止対策」は早急に考えなければなりません。しかし、だからと言って「まずは認知症と診断された高齢者の運転は全面的に禁止しよう」という決断に至って問題はないのでしょうか?
例えば、今回取り上げた認知症の方ですが、奥様は、ご主人がもともとせっかちな性格の人だから両方とも同じチェーンの薬局なので家の近くの店を思い出して行動したんだろうと思っています。しかし、僕は、常識的に考えて病院のそばにある薬局に薬をもらいに行くのが筋だし、奥さんをそこに置いてわざわざ遠くまで運転してまた戻ってくるなんてことはしないと考えるので、これは認知症の症状ととらえるわけです。
過去に運転中の失敗はないと奥様は考えるし、僕はこの状況を知ってしまうと事故があってからでは遅いでしょうと考える。堂々巡りです。法律で決めたことならだれもが納得できる内容とはいいがたいのです。きちんとした線引きを誰かがしなければなりません。誰がやってくれますか?
4.『認知症と診断された方は運転免許証を返上しましょう』みたいなポスターや、パンフレットの作成、早急に取り組まなければならないことですが、どこの管轄なのでしょう?公安委員会は運転免許の更新の時に活躍してくれていますが、一部の高齢者からは嫌われています。

さて、ここからが本題、というか、ブログですので個人的見解だと思って読んでください。「認知症高齢者の運転」についての対策は、急を要する社会問題となりました。以前からこの問題について考えていなかったわけではありませんが、取り組みがのんびりすぎた感があります。それは、上記のような様々な問題を含んでいたからでした。
政府は、「認知症高齢者の自動車運転に関する指針」を早急に出さなければなりません。

 認知症と診断されても、そのタイプによって症状には違いがあります。
 代表的なアルツハイマー病では、その病期によって症状が変わっていきますが、初期の段階であれば理解力がまだ残っていて運転をやめる説得や話し合いにも応じることもできます。しかし、症状が進行すれば、自分が運転ミスを犯していることも理解できず、運転をやめるよう説得しても抵抗するようになります。
 レビー小体型認知症では、幻視やそれに伴う妄想で思わぬ判断ミスを起こす可能性があります。症状には変動があり認知症症状の進行の早いものもあります。一見良さそうな時もありますが、突然悪化するのが特徴なので診断されたら早い時期に運転をやめる用意が必要です。病気についてご本人とご家族に良く理解してもらうことが重要です。
 前頭側頭葉型認知症では、物忘れがあまり目だないこと、頑固な性格が前面に出やすいこと、などでなかなか運転をやめるタイミングをつかむことが難しいかもしれません。また、ご家族から「先生からよく言って聞かせてください」とよく言われますが、医師と患者のラポールが十分とれていないと思われる段階で職権をちらつかせてもよい結果は生まれません。この仕事をしている医療従事者は何度か苦い経験をされているはずです。
 もう一つ、代表的な認知症に挙げられる(脳)血管性認知症では、脳梗塞などが基になっているので症状は多様で、かつ、進行は遅いと言えます。判断力の低下や遂行機能の低下、失認や失行、半盲や半側空間無視、さらには失語症や、認知機能ではありませんが失調や運動麻痺など、多彩な高次脳機能障害や運動機能障害がありますが、軽いものなら運転に支障がないものもあります。すべての血管性認知症の人が運転をやめる対象ということにはなりません。
 今回のテーマには入りませんが若年性認知症の方も運転をどうするか、考えなければなりません。若年性認知症と呼ばれるのは、65歳未満に発症した認知症ということですから、上述した認知症の各タイプが見られます。若年性であるだけに、病状や病気についての理解は良いのですが、理解していても運転をやめられない諸事情(自身の現状を受け入れられない、まだ仕事を続けたい、まだ仕事はできる、運転をやめると意欲をなくすのではないか、など)があって事故回避を妨げています。

 的確な診断が求められます。医師の診断能力の向上だけではなく、簡便でかつ診断的価値の高い検査法の開発が求められます。
 そして、できるだけ早い時期に、今後の予測について説明して、できるだけ自主的に運転をやめられるように持って行く必要があります。場合によっては、運転のシミュレーションを行って認識してもらうことが良いでしょう。しかし、そのために教習所に行くように伝えても自尊心を傷つけられ抵抗する人もいるでしょう。できれば、医療機関(リハビリ室など)に設置できるような安価なシミュレーション装置の開発が望ましいです。
 こんなものもあります。
◎1項目でも頻発するなら、運転をやめることを考える;
 □ センターラインをこえる
 □ 路側帯に乗り上げる
 □ カーブをスムーズに曲がれない
 □ 車庫入れに失敗する
 □ 普段通らない道に出ると急に迷ったり、パニック状態になったりする
 □ 話しかけると、運転に集中できなくなる
 □ 車間距離が短くなる
以上7項目
これは熊本大学医学部 池田学教授が作成されたものです。
「俺はまだ運転できる!」と言い張る人、ここで紹介した人のようにご家族も「まだ大丈夫だと思います」という人には、このチェックシートを持ってご家族が同乗して確かめてみてはいかがでしょうか?
 このようにしてスムーズに運転をやめることができるように進めることがポイントですが、どうしても認めてくれない、生きがいにしているものを取り上げられない、生活の支えに不可欠だ、という場面に遭遇することは決して少なくはありません。こうした場合には、医師や医療関係者だけの取り組みでは先に進みません。運転をやめてもその代替になるものを準備してあげる必要があります。様々な社会資源の活用、その利用を企画し可能にするための経験豊富な協力者や協力機関が必要です。その連携を結ぶ役割は認知症サポート医に担ってもらいます。
 認知症サポート医は、認知症の人も安心して共に暮らせるまちづくりをスローガンとして、地域の様々な職種の人たちを連携させる担い手です。(結果的に自分の首を絞めてしまった。こうなるはずではなかったのに…)ただし、認知症サポート医は、すべて自分でするのではありません。あくまでもどこかに適切に「つなぐ」だけです。必要なら関係者を集めて議論しましょう。誰かに動いてもらった方がスムーズに事が進むことだってたくさんあります。その「つなぎ」を作るのが認知症サポート医です。

 この記事を書く前はとてつもなく膨大なシステム作りになりそうでしたが、最後はあっけなく「認知症サポート医」に丸投げの格好になってしまいました。でも、これが一番の方法だと思います。誰が動くか、どこでやってもらうか、どのようにそこまで持って行くか、段取りを計画し、段取りをつける、認知症高齢者の運転事故を未然に防いで、かつ、認知症高齢者が安心できる環境を提供してあげたい、そう願う人々の動きをスムーズにするのが「認知症サポート医」の役目ですから。

最後は思わぬ展開になってしまいました。
これはあくまでも個人的、かつ、刹那的見解です。
認知症サポート医として、本当にこうならないことを願っています。(よくわかりません。自分ではいい考えだと思っていますが、同じお仲間からバッシングを受けそうです。)
posted by 極楽とんぼ at 19:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 医学・健康
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