2011年10月14日

片頭痛による脳梗塞 実際にあった一例

「前兆を伴う片頭痛は、脳梗塞を発症するリスクが2倍になる」という報告があります。

「頭痛の各論1」でも、「前兆が起こっている間は局所的に脳の血流低下が起こって」いると説明しました。この血流低下を頻回に繰り返すとのちのち脳の萎縮や無症候性の脳梗塞が見つかるようになるというお話です。
しかし、一般的に片頭痛の患者さんの好発年齢は若く、高齢になるにつれて頭痛の発作も少なくなります。動脈硬化が加わってくる高齢者と違い、仮に短時間の脳血流低下があっても急性発症の脳梗塞にいたる心配は要らないと思われがちです。
ところが、「前兆を伴う片頭痛は、脳梗塞を発症するリスクが2倍になる」というのです。

ここに、36歳で脳梗塞になった女性を1例御紹介したいと思います。(ご本人の承諾をいただいて掲載いたします。)
尚これは、学会向けの症例報告ではありません。そのため、個人情報にあまり立ち入らないよう配慮しましたので、不備な点や実際とは異なる点が多数見つかるかもしれません。

 彼女はごく普通の36歳の会社員です。2008年6月30日の朝、左片麻痺で救急搬送されました。前日の夜から明け方まで友人と飲酒し、自宅で眠った後強い頭痛で目が覚めました。吐き気がしてトイレに行って、嘔吐した直後に脱力発作が出現しました。
救急搬送されたときの症状は意識はやや混濁していましたが、まもなく回復しました。右の前頭部痛と左上下肢は完全〜強い運動麻痺を認めました。入院時にすぐにCTAという脳血管造影検査を行いましたが、閉塞動脈も狭窄血管も認めませんでした。脳塞栓症と診断して治療を開始しましたが、翌日のMRIには右の基底核にラクナ梗塞が出現していました。
 こういう若い年齢で発症する脳梗塞は脳動脈硬化以外の原因を念頭に入れておかなければなりませんが、その後の検査でも、脳塞栓を起こすような心臓の異常もなく、血液検査上も異常は見つからず、DSAという脳動脈造影検査にも異常は見つかりませんでした。
結局、脳梗塞発症の原因は脱水症、その誘引となったのは前日から明け方まで深酒をしていた事と、数日間真夏日が続いていた事だろうとご家族にも転院先のリハビリ病院にも説明したのですが、なんとも納得のいかないもやもやした気持ちでした。(なぜなら、脱水で脳梗塞を起こすには、基盤に動脈硬化があるから、というのが僕の持論でしたので。)
 当院で急性期リハビリを行った後、彼女は回復期リハビリのため転院しました。そして翌2009年1月に退院した報告と「頭痛」のために受診します。リハビリのおかげで、杖を使って歩けるようになっています。右の上肢は・・・残念ながら完全麻痺のままでした。そのときは元気な笑顔で診察室に入ってきた彼女にただただ懐かしく、「脳梗塞の痕は小さくなっているし、ほかに異常はないよ」といって帰しました。
 その年の4月、今度は、「右眼がぼやける、頭痛がある、倒れる前にあった症状に似ている」といって受診しました。検査には異常はありません。頭痛はひどくないのか、「検査の結果は異常なし」と伝えると安心してそれ以上質問もなく帰っていかれました。
 今年の6月、めまいがすると言って受診されましたが、このときの検査の結果も異常なく、耳鼻科に行くといって帰宅、今回10月に、「3日前からもやもやしていた、今朝頭痛あり2回嘔吐した、また前のようになるんじゃないかと心配だったので来ました」といって受診したときに、「もしや、この人は片頭痛では」と始めて疑いの眼を持ったのです。

 片頭痛を疑って始めて詳細な問診を行う・・・なんとも藪な医者です。
「もしかすると、あなたは片頭痛かもしれません、片頭痛のせいで脳梗塞になったのではないかと思うのでいろいろお聞きしたいのですが・・・・頭痛の前に何か光るものが見えたりしませんか?」
 彼女は、頭痛に対して慣れっこになっているようでした。「う〜ん、そうかもしれません、ああ、そうですね、光るものといえばあれが光るものかもしれませんね」と思い浮かべるように答えました。「光というよりぎざぎざのものでしたよ」「それはだんだん大きくなりますか、大きくなってものが見えなくなる?」「いいえ、変わりませんでした」(そう答えましたが、実際には頭痛の前には物がぼやけて見えづらくなっています)「そのぎざぎざが見えるもっと前に、今回のように頭がもやもやしたりしたことはよくありますか?」「はい、ありました」「やっぱり片頭痛のようですが、こういう頭痛はいくつくらいからありましたか?」「二十歳前くらいからですね、会社に勤めて仕事をするようになってから」「普通の頭痛薬では止まらなかったでしょう?」「そうですね、それでも薬を飲んでないと痛くなるので結構飲んでました、病院に行っても異常はないって言われるだけでしたし」「ほかに頭痛の前にあった症状は?」「生あくびが出ました」「この脳梗塞になる前のことを少し聞きたいのですが、やっぱり頭のもやもやが続いてましたか?」「もやもやというより会社を休むほどの頭痛が1週間くらいずっと続いていました、とにかく動きたくないという感じ・・・」「ずっと頭痛が続いていたのでよく薬を飲んでいました、でも効かなかった・・・」「それから、目が震えてました・・・物がちゃんと見えないんです、震えて・・・」
 彼女は、予兆も前兆もしっかりある、片頭痛の患者さんでした。そして、
 脳梗塞になる前、彼女は前兆のある頭痛を頻繁に繰り返していたのだとわかりました。

 でも、脳梗塞が発症する前に、彼女は頭痛で目覚めています。片頭痛の頭痛は血管が拡張して血流が急に増えるからと説明されています。それなら脳梗塞になどなるはずがありません。いろいろ考えた結果次のような説明が浮かびました。
 彼女は1週間もの間前兆のある頭痛発作を頻繁に繰り返していたので脳血流の低下の状態が続いていました。原因は薬物乱用頭痛と思われます。
 この片頭痛の最中に彼女はアルコールを摂取し、強度の頭痛で目覚めました。脳血流低下が続いていた中でのアルコール摂取による急激な血管拡張、この時点でおそらく脱水状態があったと思われます。トイレで嘔吐したときに、脳圧が急激に上がったはずです。このときに脳血流の低下を起こし、脱水と脳圧亢進で脳梗塞が発症した、という仮説です。
 
 前兆を伴う片頭痛は脳梗塞のリスクが2倍、これは、いろいろな要因のひとつに過ぎないのだと思います。前兆を伴うから脳梗塞になりやすいのではなく、彼女の場合は脱水であったように、ほかに脳梗塞になりやすいリスクファクターが重なったときは要注意ということではないでしょうか?
 前兆だけで脳梗塞になるとは・・・やはり思えません。

 彼女の今、ですか?
 相変わらず片頭痛がありますが、月に2回程度(減ったということのようです)ということです。片頭痛の治療薬を処方しました。
posted by 極楽とんぼ at 18:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 医学・健康
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