2010年07月15日

慢性硬膜下血腫について  脳外科医には当たり前のこと?(1)

慢性硬膜下血腫とは、頭部外傷後(通常1〜2ヶ月後)の慢性期に、脳を覆っている硬膜という膜と、その下にあるくも膜に包まれた脳との隙間に、血液(血腫)が貯まる病気です。
脳と頭蓋骨の間には2枚(脳の表面の軟膜も含めると3枚)の膜があるので複雑ですね。
硬膜は、薄いなめし皮の皮袋をイメージするといいです。くも膜は・・・わずかに半透明なラップフィルム(サランラップ)かな。

急性硬膜外血腫(急性硬膜上血腫といっても間違いではありません)というのは、この比較的丈夫な硬膜と頭蓋骨の間に血液がたまる病気ですが、硬膜は頭蓋骨の内側に軽く貼り付いているので、ここに血がたまるためには硬膜を頭蓋骨からベリベリと剥がしていく必要があります。ですから、症状が出るまでわずかな時間経過(数時間)があります。
一方、急性硬膜下血腫というのは上記の慢性硬膜下血腫と同じ場所にできる血腫ですので、ここにはあっという間に出血の量に見合った血液がたまります。しかも脳の表面に血のベレー帽のように覆いかぶさってしまうので、脳はつぶされてしまいます。
急性硬膜外血腫(急性硬膜上血腫)も急性硬膜下血腫もどちらも生命にかかわる危険な頭部外傷です。

さて、今回のテーマの慢性硬膜下血腫に話を戻しましょう。
この「慢性」と付く硬膜下血腫、実は急性のものとはちょっと違います。どこが違うのかをご説明しましょう。
@症状発現までの期間が長く、頭をぶつけたことを忘れていることもある。
すでに述べたように、急性のものは生命にもかかわる危険なものなので、放置しておいてあとで見つかったので「慢性」と言われたなどという悠長な話ではないのです。そもそも、受傷の程度が違います。急性のものは受傷の際の衝撃が大きいのが一般的です。交通事故や転落事故などのように。ところが、慢性のものは、「ちょっと柱にぶつけて痛かったが翌日には普通に治っていた」とか、「転んで手を突いたのは覚えているが頭はぶつけていないと思う」とかいうくらいに軽い衝撃の受傷機転で起こるのです。
A血腫は主に液体である
出血した血は普通は固まるものです。空気に触れると固まる、と誤解している人がいますが、別に空気に触れなくても血液は固まるようにできています。私たちの(生きているという意味)血管の中で血液が固まらないのは血液が常に動いているからで、血液凝固線溶因子というものが血液の中に存在し、血管の中で流血中の血液が固まるのを防いでいるからです。逆に、血液が血管の外に出て動きが止まってしまうと、この血液凝固因子の働きで体内でも血液は固まります。ところが、慢性硬膜下血腫でたまった血液は固まっておらず、多くは液体のままです。水のようにすんでいるかといわれると、やはり血液には赤血球をはじめとする細胞やたんぱく質が含まれているので、沈殿物が混ざっていてどろっとしています。チョコレートドリンクのような感じです。
急性硬膜下血腫の場合は、血が固まる(凝血塊といいます)ので、ベレー帽のように脳の上に乗っかると言いましたが、こちらは固まらないのでベレー帽のようにはなりません。
B血腫には袋があって血はその中にたまっている
急性の血種は、そのまんまの血の塊です。一方、慢性のものはどろどろの流動性のものですが、その代わりに袋に包まれていて、あたかも氷の融けた氷嚢を脳の上に乗せたような格好になっています。この氷嚢の頭蓋骨側(外側)の部分を外膜、脳側(内側)の部分を内膜と呼んで区別していますが、手術の手引書を書く上の便宜上内膜外膜と区別しただけだと僕は思っています。つながっていますから。
袋はたとえたらどんな感じ?・・・う〜ん、中にたまっている血液が透けて少し青みがかった白い袋で、白いビニール袋という感じでしょうか。
どうして同じ血なのに固まらないか、説明不足でした。これには、出血の仕方と髄液の存在が関係しているのではないかといわれます。
急性硬膜下血腫は脳の表面の血管が損傷を受けて出血するので湧き水以上の血の出方をしていますが、慢性硬膜下血腫の出血は脳と硬膜を繋いでいる橋静脈の破綻により出血するといわれています。この橋静脈はミシン糸のような太さで、何本ものこの静脈で脳は髄液の水槽の中で吊られて浮かんでいると想像してください。この静脈が切れて血が出ても、水道の蛇口からポタンポタンと落ちる程度にしか血は出ません。このゆっくりした血の出方と、それが髄液に溶けて混ざることで、血液は固まることができないのだろうと考えられています。なんとなく想像できましたか?そうやって時間をかけていく間に、自分自身で袋も作ってしまうんですね。その袋の中にポタポタと血がたまって、ある程度の大きさになると、脳を圧迫して症状出現に至るわけです。
C手術は簡単で頭蓋骨に1cm程度の穴を開けるだけだから、全身麻酔は要らない。
1cmの穴を開けるのに必要な長さの傷ができます。穴から見える硬膜をメスでちょんと切って、その下に血腫の外膜があるのでそれもちょんと切るとたまったチョコレートドリンクのような液体が噴き出してきます。ここに適当な太さのチューブを入れて、・・・皮膚を縫って手術は終了です。たまった血を水で洗い出します。だんだんきれいな水に変わったら病室に戻って、外につないだ袋に血腫の中の水を排除します。
posted by 極楽とんぼ at 20:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 医学・健康
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/180374862

この記事へのトラックバック