2010年07月16日

慢性硬膜下血腫について  脳外科医には当たり前のこと?(2)

ここからは、日常診療の中で気づいた点を書き並べたいと思います。
脳外科医なら誰しも知っているんだろうなと思い、学会向けではなくもっと多くの興味ある人たちの目に触れるよう、ここに載せました。

慢性硬膜下血腫は1,2ヶ月の無症状の期間があるとお話しました。多くの例で正しいと思うのですが、慢性硬膜下血腫を早く見つけて、手術に至らないように予防することはできるのではないかと思います。

@まず、頭をぶつけたり、頭もぶつけたかもしれないと思ったらその時期に検査を受けておくことです。
お年寄りですと、この段階で、今後の予測がつくことが多いのです。本来慢性硬膜下血腫は前で説明したように、最初から出血は目立ちませんから、CTやMRIで血腫が見つかるはずはありません。
この段階で見極めたいのは脳の萎縮がどの程度あるかということです。前頭葉や側頭葉の萎縮が強くすでにそこに髄液のスペースができている人では、あとから血腫がたまってくる確立が高くなります。こういう人は2週間後にもう一度検査に来ていただくと、症状が出る前にすでに血腫がたまってきているのが見つかります。この時点で了解を得て入院していただくことがありますが、早期に診断して早期に入院治療を行った症例では手術に至った例がありません。
この時期に血腫が見つかり外来的に経過を追った例では、さらに血腫が増大して入院治療を行っても、手術をせずに済んだ例がほとんどだったように思います。
症状が出現してしまってから受診して検査で血腫が見つかった場合は、すでに血腫が脳を圧迫してしまっているので手術になることがほとんどです。
症状が出る前に、あるいは軽い頭痛程度のうちに入院したら止血剤を点滴します。しばらくの間ずっと続けます。それが治療法とは成書には書いていません。私はこのやり方をずっと行ってきて、手術を回避してきたと自負しています。

A受傷後比較的早期から硬膜下水腫と呼ぶべき状態を示す人がいまして、この硬膜下水腫が後に慢性硬膜下血腫になることがあります。
慢性硬膜下血腫のCT画像診断では4つのタイプがあるとテキストには書かれています。
1. 低吸収域型・・・CT上脳実質の色より黒い血腫
2. 等吸収域型・・・CT上脳実質と同じグレーの血腫
3. 高吸収域型・・・CT上脳実質の色より白い血腫
4. 混合型・・・黒、グレー、白が混在した血腫
(水平に鏡面を形成する血腫は特に鏡面形成型と呼ぶ)
です。このうちの1.のタイプは、CTでは水とみかけ上変わらないのですが、MRIで検査をしてみると、血液が混ざっていることがわかります。
私が思うに、テキストにあるように頭痛、歩行傷害、意識障害、などの症状が出現する以前に、すでに慢性硬膜下水腫が形成されそれが2型3型、あるいは4型のタイプに移行していくのではないかと思います。おそらくテキストに書かれている1型の慢性硬膜下血腫というのは、無症状のうちに見つかったもの、それ以外のタイプは症状を伴うタイプだと想像します。1.のタイプで手術に至る例はありません。2.、3.、4.のタイプにしても、血腫がある量に達しなければ症状は出ませんし、その前なら手術をしなくても安静治療で血種をなくすことができると思います。
B抗凝固剤や抗血小板剤を服用中の人は要注意です
心疾患や脳血管疾患の既往があって再発予防のために抗凝固剤や抗血小板治療薬を服用していると、軽微な頭部外傷でも慢性硬膜下血腫になりやすいし、血腫が進行増大する傾向があるし、治療後の吸収消失にも時間がかかる、と言えるようです。
若い人の慢性硬膜下血腫では、手術をすると術後に残った血腫も2週間ほどで消失し再貯留の心配もほとんどありませんが、高齢者になるに従い、脳の「戻る力」が衰え、術後の残存血腫の量も多く、量が多いほど再貯留の危険度が高くなるようです。再貯留の防止には、安静が指示され、「飛んだり走ったりしないように」ときつく注意されますが、高齢者ではそれでも再貯留を起こすことも少なくありません。そのため、私は高齢者については、ある程度の血腫量になるまで治療を続けて退院していただくのですが、そうするとほぼ60日間の入院が必要になります。ところが、抗凝固剤や抗血小板治療薬を服用中ですと、60日の入院が90日に延長されてしまいます。入院が長くなるだけコストパフォーマンスが悪くなる今の保健医療で、こんなに長期の入院管理をするところはほかにはないかもしれません。でも、二十数年間、慢性硬膜下血腫の治療は変わっておらず、私が見た最初のころの患者さんには短期間の入退院で3回もの手術を繰り返した例もあります。最近でも、大病院の脳外科で手術をして1週間で退院し、4週間後には再度手術が必要かもしれないくらいの再貯留を認めて入院して安静治療を行いましたが、抗血小板治療薬の服用を中止できなかったため、さらに3ヶ月間の治療期間を要した例もあります。
C慢性硬膜下血腫の中に、新たな出血を繰り返している人がいるらしい
慢性硬膜下血腫がある程度の量になってくると転倒しやすくなります。転倒してまた頭をぶつける人がいます。そうして血腫の貯留のスピードが増して、急に悪くなって外来につれてこられます。CTやMRIで見ると、明らかに慢性硬膜下血腫の血腫スペースに、凝血塊と思われる塊が存在します。こうした例は、当然手術になるわけですが、術後の血腫の除去具合に不満が残ります。チューブから抜けてこないのです。
こうした例は、上記の薬を服用している人に多いような気がします。

いずれにしましても、頭をぶつけたらなるべく一度は検査を受けておきましょう。
硬膜下に隙間があると言われたら、数週間後にもう一度検査を受けておきましょう。
異常なしと言われても、1,2ヵ月後になんとなく頭痛が気になりだしたら、検査に行きましょう。頭痛だけならまだ間に合います。
認知症というのは突然始まるものではありません。急におかしなことを言い出したら、検査を受けましょう。その中には慢性硬膜下血腫が見つかる例もあるでしょう。
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2010年07月15日

慢性硬膜下血腫について  脳外科医には当たり前のこと?(1)

慢性硬膜下血腫とは、頭部外傷後(通常1〜2ヶ月後)の慢性期に、脳を覆っている硬膜という膜と、その下にあるくも膜に包まれた脳との隙間に、血液(血腫)が貯まる病気です。
脳と頭蓋骨の間には2枚(脳の表面の軟膜も含めると3枚)の膜があるので複雑ですね。
硬膜は、薄いなめし皮の皮袋をイメージするといいです。くも膜は・・・わずかに半透明なラップフィルム(サランラップ)かな。

急性硬膜外血腫(急性硬膜上血腫といっても間違いではありません)というのは、この比較的丈夫な硬膜と頭蓋骨の間に血液がたまる病気ですが、硬膜は頭蓋骨の内側に軽く貼り付いているので、ここに血がたまるためには硬膜を頭蓋骨からベリベリと剥がしていく必要があります。ですから、症状が出るまでわずかな時間経過(数時間)があります。
一方、急性硬膜下血腫というのは上記の慢性硬膜下血腫と同じ場所にできる血腫ですので、ここにはあっという間に出血の量に見合った血液がたまります。しかも脳の表面に血のベレー帽のように覆いかぶさってしまうので、脳はつぶされてしまいます。
急性硬膜外血腫(急性硬膜上血腫)も急性硬膜下血腫もどちらも生命にかかわる危険な頭部外傷です。

さて、今回のテーマの慢性硬膜下血腫に話を戻しましょう。
この「慢性」と付く硬膜下血腫、実は急性のものとはちょっと違います。どこが違うのかをご説明しましょう。
@症状発現までの期間が長く、頭をぶつけたことを忘れていることもある。
すでに述べたように、急性のものは生命にもかかわる危険なものなので、放置しておいてあとで見つかったので「慢性」と言われたなどという悠長な話ではないのです。そもそも、受傷の程度が違います。急性のものは受傷の際の衝撃が大きいのが一般的です。交通事故や転落事故などのように。ところが、慢性のものは、「ちょっと柱にぶつけて痛かったが翌日には普通に治っていた」とか、「転んで手を突いたのは覚えているが頭はぶつけていないと思う」とかいうくらいに軽い衝撃の受傷機転で起こるのです。
A血腫は主に液体である
出血した血は普通は固まるものです。空気に触れると固まる、と誤解している人がいますが、別に空気に触れなくても血液は固まるようにできています。私たちの(生きているという意味)血管の中で血液が固まらないのは血液が常に動いているからで、血液凝固線溶因子というものが血液の中に存在し、血管の中で流血中の血液が固まるのを防いでいるからです。逆に、血液が血管の外に出て動きが止まってしまうと、この血液凝固因子の働きで体内でも血液は固まります。ところが、慢性硬膜下血腫でたまった血液は固まっておらず、多くは液体のままです。水のようにすんでいるかといわれると、やはり血液には赤血球をはじめとする細胞やたんぱく質が含まれているので、沈殿物が混ざっていてどろっとしています。チョコレートドリンクのような感じです。
急性硬膜下血腫の場合は、血が固まる(凝血塊といいます)ので、ベレー帽のように脳の上に乗っかると言いましたが、こちらは固まらないのでベレー帽のようにはなりません。
B血腫には袋があって血はその中にたまっている
急性の血種は、そのまんまの血の塊です。一方、慢性のものはどろどろの流動性のものですが、その代わりに袋に包まれていて、あたかも氷の融けた氷嚢を脳の上に乗せたような格好になっています。この氷嚢の頭蓋骨側(外側)の部分を外膜、脳側(内側)の部分を内膜と呼んで区別していますが、手術の手引書を書く上の便宜上内膜外膜と区別しただけだと僕は思っています。つながっていますから。
袋はたとえたらどんな感じ?・・・う〜ん、中にたまっている血液が透けて少し青みがかった白い袋で、白いビニール袋という感じでしょうか。
どうして同じ血なのに固まらないか、説明不足でした。これには、出血の仕方と髄液の存在が関係しているのではないかといわれます。
急性硬膜下血腫は脳の表面の血管が損傷を受けて出血するので湧き水以上の血の出方をしていますが、慢性硬膜下血腫の出血は脳と硬膜を繋いでいる橋静脈の破綻により出血するといわれています。この橋静脈はミシン糸のような太さで、何本ものこの静脈で脳は髄液の水槽の中で吊られて浮かんでいると想像してください。この静脈が切れて血が出ても、水道の蛇口からポタンポタンと落ちる程度にしか血は出ません。このゆっくりした血の出方と、それが髄液に溶けて混ざることで、血液は固まることができないのだろうと考えられています。なんとなく想像できましたか?そうやって時間をかけていく間に、自分自身で袋も作ってしまうんですね。その袋の中にポタポタと血がたまって、ある程度の大きさになると、脳を圧迫して症状出現に至るわけです。
C手術は簡単で頭蓋骨に1cm程度の穴を開けるだけだから、全身麻酔は要らない。
1cmの穴を開けるのに必要な長さの傷ができます。穴から見える硬膜をメスでちょんと切って、その下に血腫の外膜があるのでそれもちょんと切るとたまったチョコレートドリンクのような液体が噴き出してきます。ここに適当な太さのチューブを入れて、・・・皮膚を縫って手術は終了です。たまった血を水で洗い出します。だんだんきれいな水に変わったら病室に戻って、外につないだ袋に血腫の中の水を排除します。
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2010年07月14日

ダイアモックスという薬・・・

もう2ヶ月は経ったでしょうか・・・

数ヶ月前に急に右半身に麻痺が出現してすぐに回復したが、それから、お風呂上りなどにしびれが起こったり言葉が思うように出なくなったりする、と言って外来を受診した患者さんがいらっしゃいました。
頭部のMRI検査をしたところ、左脳に比較的小さな(いわゆるラクナ梗塞より大きい)脳梗塞のあとが見つかりました。
しかし、MRIで認めるこの脳梗塞の後遺症では、その後も繰り返している痺れや言語障害(失語症)は説明できません。
そこでMRA(MRアンギオグラフィー、MRアンギオとも呼ばれます)を行ってみました。
左の中大脳動脈という、側頭葉や頭頂葉の主たる部位に血液を送っている動脈の主幹部(いわば本管)が閉塞していることがわかりました。
こんな根元で脳の動脈が突然閉塞したら、こんなことではすまなかったはずです。これこそまさに脳卒中で、突然右半身麻痺になり倒れるか椅子から崩れ落ちるかしたでしょうし、言葉がしゃべられなくなったでしょうし、なんといっても救急車で搬送されなければならなかったでしょう。
そうならずに一過性の、軽い症状(いわゆるTIAだったのかもしれません)で済んだということは、このMRAで得られた所見はそれより前から時間をかけてできたものだということです。どういうことかといいますと、中大脳動脈が徐々に詰まっていく間に、血液の供給が落ちてきた脳にはほかの動脈から血液をまわしてもらう道筋ができたということです(側副血行路といいます)。
よく「バイパスができた」という風にいわれますが、たとえ正規の循環ルートでなくても、バイパスからの血液循環(側副循環といいます)が十分なら、それは特に治療して新たなルートを作る必要はありません。側副循環が十分なら、その後の症状出現の繰り返しは起こらないはずです。この患者さんの場合に問題となるのは、その後も一過性の症状出現を繰り返しているということです。
側副循環が十分ではないのではないかという疑いがもたれ入院精査をお勧めしました。
入院していただいてどうするつもりだったのか?
まずは、DSAという脳血管撮影を行って、側副循環の状態を画像で確認したかったからです。
もうひとつは、脳血流量など、脳循環の様子を調べたかったからです。
DSAというのは、血管の形や走行を写真にしたものです。血液がどんな動脈の中を流れているかを調べることはできますが、脳に十分な量の血液を送っているかは調べられません。それを調べるには別の検査が必要です。

この脳血流量測定の検査にダイアモックスという薬が使われます。

実は、側副循環に限らず、脳循環が不良な部分の脳動脈というのは、十分な血流を確保するために最大限に血管が拡張しています。血管を最大に広げて、脳に何とか血液を供給しようと頑張っているわけです。こうした動脈にはもう広がる余裕はなく、当然血流をさらに増加せよと指示されても「もう無理〜」というわけです。
ダイアモックスという薬は、健常な脳動脈を拡張して血流を増加させる作用(50%も増加します)があります。だから、ダイアモックスを使って脳血流を調べると、健常な脳の部分ではダイアモックスを使う前よりも脳血流は増えていることがわかり、先ほどの、最大限に脳動脈が拡張してしまった部分では脳血流は増えないという差が生まれます。
ダイアモックス負荷試験と呼びますが、この検査で、脳循環の予備能力がないことがわかると、この患者さんは新しい血行ルートを作らないと問題を起こす危険が高いということになるのです。

すでにこの患者さんは2月以降何度か症状を繰り返しているわけですから、検査の結果は予測されます。しっかり検査を受けて、血行再建術を行うかどうか検討してもらうべきですが、その後の受診がありません。そろそろ、こちらから連絡をしないと不安です。続きを読む
posted by 極楽とんぼ at 20:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記