2007年04月17日

脳梗塞の原因、抗リン脂質抗体症候群(APS)

先日、若い女性の再発脳梗塞のケースに出会い、原因がわからず、難病(特定疾患)かもしれないと思い、親友の神経内科教授に紹介して診ていただきました。返ってきた病名は、「APSの疑い」・・・、たいしたものだなあと感心して、APSについて成書をひも解いてみると、なるほどこの病気、北大が大御所だったんですね。
彼に頼んでよかったぁ。でも・・・、もっと早くに行ってもらえば良かった。つくづく勉強不足を後悔したものです。
そこで、この聞き慣れないAPSですが、一緒に勉強しましょう。

1. 抗リン脂質抗体症候群(APS)(やっぱり聞き慣れない病気ですね)
抗リン脂質抗体症候群(APS)は、まず、その名が示すように血液中に抗リン脂質抗体という自己抗体が見つかる病気です。そして、流産を繰り返したり、動脈や静脈の血栓症(脳梗塞、肺梗塞、四肢の静脈血栓症など)を起こしたり、血液検査上では血小板が減少(血小板が減少したら出血しやすくなると思った方は鋭い)する、というような特徴を認めます。

2. この病気の患者さんはどのくらい
1997年の受療推計数(つまりこの病気でかかったとされる患者数)は、3,700人とされています。だから、実際にはもっと多いということですね。最初に申し上げたように、あまり聞き慣れない病気、正しく診断されなかった症例がたくさんあると思います。かく言う私も、誤診しました。(ごめんなさい)

3. この病気は自己免疫疾患ですか
この病気の方の約半数は、全身性エリテマトーデス(SLE)に合併していると報告されました。強皮症などという他の膠原病に合併した例もあります。また、こうした膠原病などの基礎疾患がなくても発症した例も見られます。習慣性流産と言われた方、特に動脈硬化がないと思われる若年期に脳梗塞などになった方は、この病気かもしれません。

4. この病気の原因は未だ不明です
遺伝するかどうかもわかっていません。

5. 症状についておさらいしましょう
下肢の深部静脈血栓症
症状としては下肢の腫脹と疼痛が特徴です。
脳梗塞や一過性脳虚血発作
脳血流障害による片頭痛、知能障害、意識障害、てんかんなど種々の中枢神経症状もみられることがあります。
肺梗塞
肺動静脈血栓症や肺高血圧の原因となり、呼吸不全を起こし命にかかわることもあります。
心筋梗塞
末梢動脈の閉塞による皮膚潰瘍
網膜動脈の血栓による失明
一度に複数の部位に上に述べたような血栓症を多発性に起こし、生命の危険を及ぼすこともあり、劇症型抗リン脂質抗体症候群というそうです。
※習慣性流産は、妊娠第1期(3ヶ月以内)に2回以上の自然流産があるか、第2期以降(通常妊娠5.6ケ月以降)に1回以上流産の経験がある場合をいうそうです(知らなかった)。
その他、出産は出来ても胎児仮死、胎児発育遅延などがみられたり、出産後の母体の血栓症の合併も報告されています。
血小板減少に関しては軽度であることが多く、血液検査上で見つかる程度。皮膚に紫斑ができたり、脳出血や、消化管出血による吐血や下血という出血症状は少ないようです。

6. この病気の治療法
まず日常生活における血栓症の危険因子の除去が重要
具体的には禁煙、高血圧や高脂血症の改善、経口避妊薬の中止
急性期の動静脈血栓症の症状に対しては、通常の血栓症の治療に準じて、ウロキナーゼやヘパリンを使った抗凝固療法が行なわれます。
慢性期には、再発予防のために少量のアスピリンやワーファリンが使用されます。
抗リン脂質抗体が陽性の場合でも、血栓症の既往や症状がない場合には積極的な治療の必要性はなく、通常経過観察のみでよいとされています。
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2007年04月06日

認知症のための主治医意見書作成のポイント(2)

さて、認知症の場合の、主治医意見書作成のポイントはどこかと申しますと、
1.傷病に関する意見
3.心身の状態に関する意見
5.特記すべき事項
の3項目だと思います。

まず、「1.傷病に関する意見」では、先にも述べたように、生活機能に影響を及ぼす疾病の診断名を最初に記載するわけですから、ここ(1)に認知症と記載すべきです。もちろん、単に認知症と記載するのではなく、その原因疾患が記載されていたほうが傷病経過を予測する上で非常に参考になるでしょう。アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症あるいはPick病などは、それぞれに症状に特徴があるので、経過予測やケアプラン作成の重要な情報となるでしょう。(2)の症状としての安定性は、およそ半年後には悪化することが予測される場合には「不安定」とします。(3)では、(1)で記載された認知症の原因疾患の特徴が記載されていることが望ましいですが、認知症の経過がどのような状況にあって介護の必要性が出てきているかが記載されていると良いと思います。また、高齢者においては、傷病自体による生活機能低下に加えて、転倒、入院を契機に日常の生活が不活発になったり、外出の機会の減少、配偶者との死別や転居などを契機とする社会参加の機会の減少、家庭内での役割の喪失などのさまざまな要因により、さらに生活機能が低下することが考えられますので、こうした要因についての記載も大切です。内服薬については、私などは、「そんなもの知ってもらってなんの役に立つ?」とばかりに無視してきましたが、このレポートを書く中で、「服薬コンプライアンスが低下している認知症高齢者に、服薬の徹底や見守りの必要性がある薬剤については記載しておくとケアプラン作成に盛り込んでもらえる」と、その活用方法を見つけることができました。(でも、やっぱり面倒なので、必要最小限にしたいと思います。)

つぎに、「3.心身の状態に関する意見」では、認知症高齢者の日常生活自立度、中核症状、周辺症状について記載します。
(1)認知症高齢者の日常生活自立度はおおよそ認知症の重症度と一致するものと思います。つまり、その判断には、家族や介護者からの情報が必要となるわけで、独居生活をしている認知症高齢者では判断が難しくなりますし、ご家族や介護者の方からの情報がもらえなければ、この欄には正確な記載がされない事になり、介護認定審査会を困らせ、ひいては不本意な認定を受けることとなります。
(2)認知症の中核症状、ここは要介護認定ソフトによる一時判定の際、マークシートに転記される部分なので、必ず記入が必要です。短期記憶ですが、ここは、(1)の認知症高齢者の日常生活自立度が自立でない限り、「問題あり」となります。認知症である限りここが「問題なし」になるはずがないことは、短期記憶障害が「認知症の中核症状」なのですから当たり前といえば当たり前です。認知症高齢者の日常生活自立度がU以上であれば、「日常の意思決定を行うための認知能力」は「いくらか困難」以上の障害です。Vであれば「見守りが必要」、Wであれば「判断できない」としてもほぼ間違いはないでしょう。「自分の意思の伝達能力」はUであれば「いくらか困難」、Vであれば「具体的要求に限られる」、Wであれば「伝えられない」としていいでしょう。
(3)の認知症の周辺症状や(4)のその他の精神・神経症状は、本人への問診や質問から情報を得ることはできません。また、本人が同席している場面では、家族や介護者からも適確な情報を引き出すことはむずかしいと思われます。本人に席をはずしてもらう方策を考える必要もあるでしょう。また、中には、家族の方が隠そうとする例もありますので、注意が必要です。

3つ目のポイント、「5.特記すべき事項」についてです。
 ここには、重複しているように思いますが、上記の中核症状や周辺症状についての具体的な記載があると良いのではないかと思います。また、そうした症状のゆえに、家族や介護者が受けている具体的な影響や、本人にとっての危険な状況などは大変役に立つ情報かと思います。「片時も目が離せないから、トイレに一人で入ることも出来ない」などは思わず笑ってしまいそうな場面ですが、深刻な状況がよく伝わるのではないでしょうか。中核症状だけなら、手はかからないと(審査委員会では)判断されがちですが、同じことを何度も何度も聞いてきたり、「腹減った」「何も食べさせてくれない」「まだ食べてない」などと繰り返し繰り返し言われたらどうでしょうか。虐待につながるケースもありそうに思いませんか。実際に虐待が疑われるケースはその旨を記載し、時には、情報公開を限定することも必要です。成年後見制度を利用してもらうよう希望し、その旨をここに記載した例もあります。介護認定度の範囲内では、夜間の介護サービスを導入できず経済的に困窮した例もあり、家族や介護者の精神的負担ばかりでなく、こうした経済的負担についても記載すると良いのではないでしょうか。

以上が、認知症高齢者の、主治医意見書作成のポイントです。まだまだ、こうだよ、それは違うよ、とご意見もあろうかとおもいますが、矢面に立てるには格好の獲物かと思います。もっと良い意見書作成のヒント集がありましたら、お知らせください。
これは、文例集を載せようとしたものではありません。あくまでも、審査委員会が効率よく運営されるための意見書を提出するポイントを書いたもの、この先生の意見書は信頼できるといわれる意見書を作るポイントを述べたものです。
同じ文章、同じ活字の行列では、読む気にもなりません。どうぞ個性ある、そして、信頼に足る、良い意見書作成にお役立てください。
最後に、なぜ、一般向けにこのレポートを発表したのか。
それは、良い意見書を書いてくれる先生こそ、良いかかりつけ医であり、良い意見書を書いてもらうためには、ご家族や介護者の方たちも時間を惜しまず協力しないといけない、と訴えたかったからです。
意見書だけが窓口に届けられるケースがあります。一度も会ったことのない方が診察室に来られ検査(初診)をして帰りますが、意見書をお願いしに来たと一言も告げないで帰ってしまうケースもあります。それきり来られません。そうかと思うと、区分変更や不服申請をしたにもかかわらず、そんな理由はどこからも(本人、家族、ケアマネージャー、市役所さえも)なく、何も事情を知らされない主治医は期限に追われて更新日を見てびっくり。ついこの間書いたばかりじゃないか・・・。この忙しいのにいい加減にしろとまで、言ってしまったとか言わなかったとか。急遽、電話をして事情確認することがほとんど。
これでは、良い意見書は書けません。良い意見書が出来ないということは、満足のいく介護認定はいつまで経っても受けられない、ということです。
良いかかりつけ医探しと、良い意見書作りにご協力を。
posted by 極楽とんぼ at 00:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 医学・健康

2007年04月05日

認知症のための主治医意見書作成のポイント(1)

主治医意見書は、一般的には、介護度を決定する介護認定審査会なるものに、かかりつけ医として知りうる医学的な情報を提供するものと勝手に判断しています(ですから、実際の生活で「できているかどうか」というよりも医学的に見て「できるかどうか」を判定していれば立派な意見書だと思うのです)。
ところが、実際に介護認定を受けた方たちの5割前後(5割以上かも)の方たちは何らかの認知症があると私は感じているのですが、この認知症の程度によって日常生活がどのような影響を受けているかを「医学的に」推測して主治医意見書を書くことは至難の業ではありません。
そもそも、認知症の程度を手がかりに「これはできるはず」と推測するなど、机上の空論に過ぎず、そんな意見書など審査会にとっては混乱の元、百害あって一利なしというものです。
そこで、自分自身が苦労し、「なぜ普段の診療の役にも立たないこんなことまで記載しなきゃ(知らなきゃ)ならないんだ」とやり場のない八つ当たりを繰り返しながら作り上げたのが、この「認知症のための主治医意見書作成のポイント」です。(2回に分けて掲載しますのでご了承ください。)

さて、平成18年度から、主治医意見書の様式が少し変わったことはご存知でしょうか?
変わったにもかかわらず、その説明が不十分だったことが、新予防給付施行後の混乱を招いたことを当事者はご存知だったのかどうか・・・。
 介護認定審査会では、この新しい様式の意見書を元に、高齢者の状態の維持と改善の可能性の有無に着目して審査を行っているのです。
 では、どこがどのように変更されたのでしょうか?

・ まず最初に、特定疾病の疾患分類と種類に変更があるようです。
  16の特定疾病が提示され、16番目に新たに「がん末期」が追加されました。
・ 主治医意見書の利用に係る同意のところが、同意の主体を明確にするため「主治医として」の同意を求めています。
・ 1.の「傷病に関する意見」の(1)も、「障害」の直接の原因となっている傷病名ではなく、「生活機能低下」の直接の原因となっている傷病名を1に記載するよう求めています。
・ 当然、「痴呆性老人の日常生活自立度」は「認知症高齢者の日常生活自立度」に変わりました。
・ また、「問題行動」も「周辺症状」に変わりました。
・ 「介護に関する意見」が「生活機能とサービスに関する意見」に変わっています。
・ 「サービス利用による生活機能の維持・改善の見通し」という項目があり、これに代わって「介護の必要の程度に関する予後の見通し」という項目がなくなりました。つまり、疾病による症状としての予後の見通しではなく、生活機能の維持・改善がサービスを利用することで期待できるのかということが判断の対象となっています。
posted by 極楽とんぼ at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 医学・健康